家と人をめぐる視点

第9回

ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の可能性。

住宅・生活誌「家と人。」編集長 加藤 大志朗

エネルギー収支がプラスマイナス“ゼロ”

住宅メーカーのCMで最近よく見かけるZEH(ゼッチ=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)。住宅で使用する一次エネルギー(空調・給湯・照明・換気)を減らし、太陽光発電などで創ったエネルギーを使うことで、年間に消費するエネルギーを正味(ネット)ゼロ以下にする住宅のことをいいます。

「一次エネルギー」とは、化石燃料や原子力燃料、水力・太陽光など自然界から得られるエネルギーのことで、これらを変換・加工して得られる電気、灯油、ガスなどが「二次エネルギー」。住宅などの建築物では二次エネルギーが多く使用され、 それぞれ異なる計量単位(kW、MJ等)で使用されています。それらを一次エネルギー消費量に換算することで、総エネルギー消費量を同じ単位(GJ・ギガジュール)で求めることが可能となることから、省エネ基準などの指標として用いられているのです。

ZEHは、光熱費がゼロの住宅ではありません。電気やガスなどのライフラインを引かない住宅でもないのが、ややこしいところです。

あくまで、エネルギー収支がプラスマイナスゼロになるという意味で、建物本体の「断熱」性能をベースに、高効率機器やHEMS(Home Energy Management System)による「省エネ」、太陽光発電などによる「創エネ」を組み合わせて実現します。

断熱性の向上で夏の暑さや冬の寒さを緩和できる。ヒートショックの予防など健康面での利点がある。光熱費が抑えられ、CO2も削減できる。一定条件をクリアすれば、補助金を利用できる──といったメリットがありますが、初期投資(イニシャルコスト)の増加は避けることができないのが最大のデメリット。

大雑把ではありますが、ZEHにするための初期投資は一般の住宅に比べて300万円前後高くなりますが、光熱費を月に約2万円として30年間0円になるのであれば、合計720万円が浮くことになります。

政府は2020年までに標準的な新築住宅、2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指すという目標を設定しており、今後、性能競争はますます過熱しそうです。

先端技術に伝統の知恵を加えて継承

ZEHの実現には太陽光発電が必須ですが、近年、注目を浴びているのが蓄電池です。

しかし、現在普及している家庭用蓄電池は大きくても10kwh前後で、数日悪天候が続けば使い切ってしまう容量です。厳寒期など、暖房に使用すると電気使用量が上がり、発電量が追いつかない日もあります。

いまのところ、太陽光発電の電気は設置時から10年間買い取り価格の優遇があり、その期間は蓄電池を導入しなくても、電気代をゼロにすることは可能です。

非常時用と考えるなら、蓄電池よりはるかに安い価格で使用できるガソリン発電機、ガスのカセットボンベ燃料などを導入した方が、現時点ではメリットがあるかもしれません。建物の構造はあとで手直しが難しいので、あらかじめ断熱性能を高い仕様にしておけば、10年後、蓄電池の価格が下がった段階で購入を検討するという手もあります。

設備機器を導入する以上、半永久的な寿命を持つものはなく、一定期間ごとに更新が必要になるため、その都度、既設設備の廃棄処理も環境への負荷となります。

技術、設備など、力ずくでZEHを実現する以前に、先人が育んできた工夫を受け継ぐことも大切です。

建具や窓の開閉など、季節や朝昼夕夜、時間に応じた住まい手の行動で、エネルギー消費も快適性も大きく違ってきます。

暑い夏は打ち水で蒸発冷却効果を生じさせ、上昇気流を起こして家の中に風を通す設計。夏は日射を遮蔽し、冬は日射を導く庇や軒のデザイン。縁側や土間の配置は、熱的な緩衝空間となるほか、ご近所とのコミュニケーションを育む機能もあります。

伝統的な建築手法や暮らしの知恵で、能動的に季節感のある暮らしを味わい、楽しむ。文化とは結局、機械ではなく、人間が創造し、受け継いでいくものかもしれません。


図1 ZEHとは「快適な室内環境」と「年間で消費する住宅のエネルギー量が正味で概ねゼロ以下」を同時に実現する住宅
経済産業省では、「2020年までにハウスメーカー等の建築する注文戸建住宅の過半数でZEHを実現すること」を目標とし、ZEH支援事業(補助金制度)において自社が受注する住宅のうちZEHが占める割合を2020年までに50%以上とする目標を宣言・公表したハウスメーカー、工務店、建築設計事務所、リフォーム業者、建売住宅販売者等を「ZEHビルダー」として公募、登録し、屋号・目標値等を公表。2018年1月現在、全国のハウスメーカー、工務店を中心に6,303社がZEHビルダー登録を行っています。


図2 「低炭素社会に向けた住まいと住まい方」の推進方策について
(経済産業省・国土交通省・環境省 平成24年7月)より抜粋


岩手県内でも続々と誕生しているZEH。この住宅は、断熱性能(外皮平均熱貫流率=UA値)を北海道仕様の1.5倍に相当する0.3W/u・Kまで高め、太陽光発電4.1kWと蓄電池を採用(岩手県八幡平市)。


厳寒期、吹き抜けのある大空間でも、床面、天井面での温度差はわずか1、2℃(岩手県八幡平市)。


天井裏に設置された高効率ヒートポンプエアコン1台で全館冷暖房を可能にする(岩手県八幡平市)。

かとう だいしろう (文・写真)
Daishiro Kato

1956年北海道生まれ。編集者。住宅・生活誌「家と人。」編集長。これまでに約20カ国を訪れ、国際福祉・住宅問題などの分野でルポや写真、エッセイを発表。住宅分野では30年にわたり、温熱環境の整備と居住福祉の実現を唱えてきた。主な著書に『現代の国際福祉 アジアへの接近』(中央法規出版)、『家は夏も冬も旨とすべし』(日本評論社)など。岩手県住宅政策懇話会委員。出版・編集を手掛けるリヴァープレス社代表(盛岡市)。

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