人物クローズアップ

人物クローズアップ vol.17

学校保健と地域医療がライフワーク
眼科医というより1人の医師として
何をやるかが大事だと思っています

鈴木眼科吉小路・すずめ眼科江刺 院長 鈴木 武敏(奥州医師会)

眼科医のいない江刺にも開院
午前と午後、掛け持ちで診療

斎藤實や後藤新平、高野長英と三偉人で名高い水沢に開院したのは平成2年です。斎藤實と後藤新平の記念館は当院のすぐ近くにあり、私は生まれも育ちも水沢ですから4人目の偉人を狙ったんですが、奇人にとどまっています(笑)。それまで1軒も眼科がなかった江刺に分院を開いたのは平成16年で、以来、午前は水沢、午後は江刺での診療が基本になっています。江刺は今も眼科医は私1人です。病院の名前が何で「すずめ」かというと、鈴木さんの目玉だから―と、冗談を言ってはいますが、こう見えても患者さんの前では厳しい医者で通っています。

最近は高齢社会を背景に、視力障害が無視できなくなっています。しかし、この辺りの人は、年をとったら見えなくなってくるのは当たり前だと思っている。そのために、病院に来るときには進みすぎていることも多い。目が悪いと転倒しやすくなり、骨折して寝たきりの原因になる。また、目を使わないと脳も使われなくなるので認知症になりやすい。たとえば、1日に2時間以上活字を見ている人は認知症になりにくいことが知られています。実際、90歳でもきちんとした眼鏡を装用して新聞を読んでいる人はしっかりしています。高齢者の視覚障害を治療しないでそのまま放置していると、転倒と認知症の発症リスクが高まるのです。

日本では眼鏡合わせを軽く考え、きちんと自分に合った眼鏡を使用していないことも大きな問題です。外国では専門の学校を出て資格を持った人が眼鏡屋さんになっていますが、日本は眼科ではなく資格を持たない眼鏡店で検眼している人が多い。免許更新時の視力検査も、高齢者の場合は目の病気の進行で1カ月後に不適応な視力になることもあり、他の国では眼科医が視力検査をしています。転倒予防や認知症予防の観点からも眼科の早めの受診は大切なのです。

学校文化祭を活かし
医療啓発活動を広める

転倒予防や認知症予防に関しても医療側の啓発が不足しています。私は25年前から学校医を務めていますので、病気の予防や健康などに関するニュースを学校や幼稚園に配ってきました。それでも、なかなか関心を持ってもらえないので、3年前の秋、事前に保健委員の生徒にどんなことが知りたいかを聞いて、高校と小学校の文化祭で医療啓発ポスターを展示したんです。文化祭には生徒だけでなく保護者や地域の方々もたくさん来場しますから閲覧者は予想以上に多く、効率的に読んでいただけることを確認しました。

しかし、個人での啓発活動には限界があり、眼科学校医の皆さんにも声をかけていたところ、東京に応援する人がいて2014年7月に「NPO法人ホスピタ医療啓発ネットワーク」を設立しました。この活動で約100種類のポスターを制作し、カラーコンタクトレンズの間違った使い方やスマートフォンの長時間使用による目への影響など、眼科の領域に限らず喫煙問題や歯と口の健康、乳がんや月経トラブルの正しい知識なども取り上げました。

原稿指示は私がしますが、法人にはイラストレーターもアニメーターもスタッフとしてそろっていますので、すべて自主製作です。現在は学校文化祭のほかに病院待合室での啓発や医療セミナーなども開催しており、会員の病院の待合室でも乳がんや大腸がんを啓発する放送を流しています。

NPO法人の設立で医療啓発活動も全国に広がってきました。平成27年度は秋田、青森、岩手、東京、福島の小中高合わせて約500校で展示しましたから、生徒だけでも1万5000人余り、保護者も含めれば一度に大勢に啓発でき、無関心層に目を向けてもらうことができました。この医療啓発活動が全国で一つになれば効率的で無駄がない。そのためにも、各県でせめて10人のドクターが会員になってくれればと願っているところです。

啓発活動に医学生も協力
学校保健は地域に浸透しやすい

私が医療啓発活動に一生懸命なのは、私自身が多くの方に育てていただいて今があると思っているからで、そのご恩を少しでも地域に還元していきたいのです。眼科医としてより、1人の医師として何をやるかが大事だと思うのです。

今年度は初の試みとして、岩手医大・学友会の衛生検査部の学生に協力してもらい、盛岡第三高校と水沢商業高校の文化祭で、緑内障のスクリーニング検査、家庭内の塩分濃度や口腔内細菌密度の測定、骨密度の測定などを行いました。その結果、検査数は延べ500人以上で、10人くらいの緑内障が見つかっています。

地域医療に関心を持っている学生たちなので大変興味を持ってくれて、来年度もやりたいと言っています。学校保健と地域医療はライフワーク。私も学生時代、同部に所属しており、病理を学んだことも今の活動に役立っています。介護犬のデモンストレーションも好評だったので、今後は盲導犬も含めて全国の高校で補助犬体験を広めていくのが夢です。

私の趣味はと問われれば医療啓発活動でしょうか。水曜と木曜の午前中の休診はほとんど活動のために費やされます。最近は教育講演やシンポジウムに呼ばれることも多いですが、忙しいと思っていないし、好きなことをやっているから疲れません。あえて言えばモノ作りが好きで、検査装置も自分で作りました。

いずれ、日本の眼鏡事情はひどい状況にあるし、スマートフォンの普及も眼鏡合わせを難しくしている。視力が良ければ目は健康という誤解もあります。賢い患者さんが求められる今、眼科に限らず早期発見、早期治療につながる医療啓発活動をさらに広げ、未来を担う子供たちを賢い大人に育てていきたいと思います。

CLINIC DATA


鈴木眼科吉小路 (写真)
〒023-0054
奥州市水沢区吉小路16
TEL.0197-22-2522
【診療科目】眼科
【診療時間】午前8:30〜11:50、午後2:00〜6:00、月曜・火曜・金曜・日曜は午前のみ
【休診日】水曜・木曜・祝日

すずめ眼科江刺
〒023-1103 奥州市江刺区西大通10-7
TEL.0197-31-1522
【診療科目】眼科
【診療時間】午前8:30〜11:50、午後2:00〜6:00、月曜・火曜・木曜・日曜は午後のみ
【休診日】水曜・金曜・土曜・祝日

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鈴木 武敏

すずき・たけとし

1952年奥州市生まれ。1978年に岩手医科大学医学部を卒業し、眼科学教室入局。1980年から病理学教室第一病理に在籍し、その間県立宮古病院、山田病院、大船渡病院に勤務。1989年認定病理医資格、医学博士取得。1990年水沢市(現奥州市)に鈴木眼科吉小路を開院。2001年に江刺市(現奥州市)にすずめ眼科江刺を開院。2014年7月にNPO法人ホスピタ医療啓発ネットワークを設立。現在、国際医療福祉大学の非常勤講師、日本神経眼科学会評議員、日本眼鏡学会評議員。

 

待合室では眼科以外の情報も含めた医療啓発のアニメを流しているほか、ポスターやチラシなども掲示している。

合わない眼鏡で異常をきたしていないかを調べる「トライリス」。自ら開発した医療機器で商品化されている。

視野異常を見つける「アイチェックチャート」と眼鏡度数の確認検査器具の開発もしている。

NPO法人ホスピタ医療啓発ネットワークが毎月発行している「ホスピ太Dr.ニュース」

「太り過ぎだった」と反省し、診察の合い間に懸垂に励む。1日20回をノルマにしている。