あとがき

英語でNightmareという言葉がある。「悪夢」という意味である。今、誰しもがこの大震災は悪夢であって欲しいと思っている。そして3月10日に戻って時間を止めて欲しいと。東日本大震災(いまだ正式に名前がないのか「東北地方太平洋沖地震」「東北関東大震災」という名前を使用しているメディアもある)は、予想されていた宮城県沖地震の規模を遥かに上回るもので、その死者・行方不明者は2万人を超え、被害総額は22兆円〜25兆円とも試算されている。そして、二次災害として福島原発事故である。目に見えない放射能被害に怯える毎日であり、テレビ画面での政府側の原発関連情報は、嘗ての“大本営発表”と同様に信頼が持てない。危うさを感じながらも経済効率を追い求めるあまり、実態を直視せずに浅はかな文明に頼った人間の愚かさ、無意味さを実感する。天変地異の前に文明は全く無力であり、その巨大な力は防ぎようが無い。医学の発達により永らえた人間の命も、大地震・大津波にはいとも簡単に奪われてしまう。高齢者世界一といったところで…無力感と絶望感に襲われる。

ここに一つの光明がみられる。被災地域の先生方は医療機関も壊滅状態、医療器具も失っているが、現在、力強く被災者の健康を守るために診療を再開し、避難所の巡回をしているとのことである。被災されたある先生からは「頑張って診療している」との力強い声での電話があった。被災地域の復興は長期化が必須であり、被災者の避難所生活も長期化しそうである。被災地の先生方の体力も心配であるが、今は患者さんの健康を守るという使命感と緊張感で頑張れるが、その気力・体力も何時まで持続できるかが大きな問題である。

被災地ではガソリン不足が解消しつつあるので物資の面では落ち着きをみせてくるかもしれないが、被災者の医療はこれからが正念場である。「いわて医師協同組合」には、多くの地域の協同組合から援助の手が差し伸べられているし、真瀬理事長からは「組合員の先生方を物資・医療現場でも強くバックアップしたいとおもう」との言葉があった。

H23・3・30記
菅原 克郎

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