家と人をめぐる視点

第13回

停電時の「オール電化住宅」の実態。

住宅・生活誌「家と人。」編集長 加藤 大志朗

災害時でも電気の復旧は早い

東日本大震災から8年が過ぎました。あの後も、2016年4月の熊本地震(死者267人)、2018年6月の大阪府北部地震(死者6人)、同年9月の北海道胆振東部地震(死者41人)など大きな地震が相次ぎ、その都度、多くの家が停電や断水などで不自由な生活を強いられます。

昨秋の北海道の地震では、震源近くの発電所が停止し、送電線故障に伴う水力発電所の停止も重なり、道内全域で約295万戸が停電しました。国内初のエリア全域停電、いわゆるブラックアウトです。

大規模停電のたびに「オール電化住宅」の脆弱さが報道され「オール電化住宅は不利」「オール電化住宅の落とし穴」といった生活者のコメントがネット上に飛び交います。

確かに、オール電化住宅は暖房・給湯・調理の熱源を電気でまかないますので、停電時には冷暖房、給湯、調理器具は使えません。しかし、冷静に考えると、一般の住宅でもエアコン、FFストーブやファンヒーター、ガス給湯器も使えないのです。電話(黒電話を除く)やFAXも電気を使いますし、スマホの充電ができないことにも気付きます。

ちなみに、北海道胆振東部地震では、当初は復電まで1カ月はかかると見込まれていましたが、北海道電力は水力を立ち上げ、徐々に供給エリアを拡大。他電力からの応援も得て2日間で99%まで復旧させました。

熊本地震の際には復電に1週間、大阪府北部地震で3時間、東日本大震災では当日復旧10.8%、 1日後復旧52.2%、1週間後復旧95.6%と電気の復旧が比較的早かったことがわかります。

北海道胆振東部地震ではガスの被害はなかったものの、熊本地震ではガスの復旧まで2週間、大阪府北部地震では4日間、東日本大震災では5週間かかっています。オール電化住宅ではない住宅のほうが、生活に不便が生じていたことになるのです。

設備に頼る前に住宅性能を確保する

あの3.11の1週間前後で、盛岡市内と雫石町、八幡平市で5軒のオール電化のお宅を訪ねる機会がありました。みなさんに室温の変化についてうかがったところ、復電までの数日間(主に居間などの)室温が18℃以下になったというお宅は1軒もありませんでした。

関東以西では、エアコン、IHクッキングヒーター、エコキュートなどの電化設備を揃えれば「オール電化」ですが、東北では断熱・気密性能の確保を前提に建てられ、電化設備を採用した家を「オール電化住宅」と呼んできた経緯があります。明確な定義こそないもの、震災当時は国の次世代省エネ基準(99年施行)が断熱・気密性能の目安とされていたように思います。

電気を利用した暖房機は、灯油やガスに比べ、圧倒的に熱量が足りません。寒さの厳しい東北地方では、住宅性能を確保したうえで電化暖房を採用しないと、暖かさが確保されないまま、電気代の負担が増すリスクを抱えます。電力会社が住宅性能の向上を唱えていたのは、そうした背景があったからでしょう。

暖房が止まった状態でも、人間1人当たり約100Wを発熱しますので、1室に4人が揃うと400Wの熱が得られます。日差しのあるときには、それを取り入れ、蓄えます。震災前の熱も屋内に蓄えられた状態でしたので、それらが重層的に放熱し、外気が氷点下の気温でも18℃前後の室温を保つことができたと考えられます。

給湯設備のエコキュートには水(お湯)が貯水され、トイレなどの生活用水として利用したご家庭もありました。370リットルのタンクですと家族4人が3〜4日は使用できる量です。料理に関しては、電化を決めた段階で大半の家庭が緊急用にカセットコンロを準備しており、調理が不自由だったという声は聞かれませんでした。

停電の数日間、家族を守り続けたのは、断熱・気密性能が確保された構造体だったことがわかります。

地震大国・日本で、避難所に指定されている建物のほとんどは、夏は暑く、冬は寒さの厳しい体育館や公民館などです。住宅性能は、徐々に向上してきましたが、日本各地の避難所の断熱性能が確保されるのはいつの日のことでしょう。


IHクッキングヒーターはオイルミストも少なく、対面式でも汚れが飛散しにくい。停電時のためにカセットコンロを1台準備するだけで安心。


災害時には貯水タンクとしても機能するエコキュート。370リットルだと家族4人で3〜4日分の緊急用生活用水にもできる。


開口部を含む構造体の断熱性能を高めつつ、日射を取り込み、床などに蓄熱する手法をダイレクトゲインという。昼間に蓄えた熱は日没後から翌朝まで暖房機の役割を果たしてくれる。


断熱・気密性能の向上に伴い、暖房用にもエアコンを採用するケースが増えている。外見は従来型とあまり変わりはないが、“外気温マイナス25℃でも暖房運転可能”とうたわれる寒冷地エアコンが人気。

かとう だいしろう (文・写真)
Daishiro Kato

1956年北海道生まれ。編集者。住宅・生活誌「家と人。」編集長。これまでに25カ国を訪れ、国際福祉・住宅問題などの分野でルポや写真、エッセイを発表。住宅分野では30年にわたり、温熱環境の整備と居住福祉の実現を唱えてきた。主な著書に『現代の国際福祉 アジアへの接近』(中央法規出版)、『家は夏も冬も旨とすべし』(日本評論社)など。出版・編集を手掛けるリヴァープレス社代表(盛岡市)。

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