家と人をめぐる視点

第24回

日本の「窓」から見えてくる、
暮らしの未来。

編集者 加藤 大志朗

窓を変えると
生活が変わってくる

断熱リフォームをして5年になります。屋根の断熱を補強し、外側アルミサッシ・内側樹脂サッシ+2重ガラスの窓を全て樹脂サッシ+3重(トリプル)ガラスに改修。結論から申し上げると、冬期の結露とコールドドラフトが100%解消し、屋内どこでも寒さを感じることが少なくなって、光熱費が削減されるなどの効果が得られました。

ただ、後悔が一つあります。予算の都合で、一部の窓をドレーキップ窓や内開き窓を諦め、引き違い窓を残したことです。同じ樹脂サッシ+トリプルガラスでも、引き違い窓は、縦滑り出し窓やFIX窓(開閉できない窓)と比べ、どうしても断熱・気密性能が劣ります。

日本の窓の圧倒的多数を占める引き違い窓は、あまり開閉しなくても、下部のレール付近に土埃がたまり、汚れも掃除機で吸い取りにくく、面倒です。これまで、機会あるごとに、日本ではどうして引き違い窓がなくならないのか──と書いてきましたが、需要が多いことから割安で入手でき、悪循環になっているのでしょう。

断熱性能の高い最新の引き違い窓でも、わずかな隙間からカメムシが出入りできるくらいの隙間がありますし、レールの掃除はやっかいなまま。内開き窓やFIX窓は断熱・気密性が高く、虫が侵入することもなく、手入れも楽です。

ドイツ生まれのドレーキップ窓は、ハンドルは1個だけで、回す角度によって閉じたり、内開き、内倒しもできます。気候のいい季節は、片開きで空気を多く取り込み、雨や雪の日は、内倒しにして、上部を少し開け、空気量を絞って空気を取り入れることもできます。外開きの製品もありますが、内開きを選ぶことで、外側のガラスの拭き掃除もスムーズです。ヨーロッパを旅したことのある方は、建築物の窓が縦滑り窓かドレーキップ窓だったことを思い出されるはずです。

窓=引き違い
という発想を捨てる

西洋建築は、石やレンガを組積した壁を基礎構造としてきたため、窓は壁や屋根に空ける「穴」という概念でした。それに比べ、日本の家屋では柱と柱の間を壁や建具で埋めるため、最初から空いているところを塞ぐことで「窓」としました。柱と柱の間(ま)に設けた戸(と)=「間戸」と呼んでいたことでも、そのルーツが分かります。

日本人にとって「窓の種類」という概念が、そもそも存在しないのは、こうした理由によるのかもしれません。

しかし、現在は多くの種類の窓が製造され、性能も年々向上し、価格もこなれ、リフォームでは窓だけの取り替えも人気です。

窓の種類を学びましょう、というのではありません。私たち日本人に必要なのは、窓=「引き違い」だけではない、というスタート地点に立つことです。

建物全体の断熱性能は向上していますので、吹き抜けに天窓(トップライト)を付けても、屋内の寒暖差はあまり感じません。天窓を北側に向けることで、終日、安定した光を確保することができます。高窓(ハイサイドライト)も同様で、一般的な窓の位置より天井に近い高いところに取り付けることで、隣家を気にすることなく、光を取り入れることができます。

床面に近い低い場所に設ける地窓は、庭を眺めるのに最適。開閉できる地窓なら、昔の町家のように、庭の涼しい空気を屋内に導くことも可能です。

かつて引き違い窓を4枚揃えていたところでも、中央にFIX窓を備え、左右の掃き出し窓で出入りできる両袖片引きにすると、断熱・気密性も高くなり、眺望もよりワイドになります。わが家のリフォームでは、予算の関係で、このタイプになりました。

窓には「眺望」という機能もあります。種類や大きさで、屋内から眺める世界をいかようにでも切り取ることできる装置ともいえます。

素敵な窓が並ぶ街は、街の景観がきれいになります。かつての日本の街並みは、格子などで品よく窓を隠しつつ、眺望や採光、通風などの機能を高い次元でクリアしていました。

窓を丁寧に考え、デザインすることで、暮らしの質が変わり、街の景観も変わるのです。


「熱伝導率」が物質そのものの熱の伝わりやすさを示すのに対し「熱貫流率=U値」は建物の壁、床、窓などの複合材料の断熱性能を表わす。数値が小さいほど、断熱性が高い。

「省エネ建材等級表示区分」経済産業省 平成23年4月、断熱等級ラベルが「窓・サッシ・ガラス」の3種類から、「窓」として一本化された。星の数が断熱等級、EU諸国の窓のU値は1.5~1.3W/㎡・Kで日本の最高等級をはるかに超える。断熱性の低い窓は結露が生じやすいが、EU諸国では「結露は建築物理上、人体に健康被害をもたらせる可能のある瑕疵」との考えが根底にある。

※参照 日本サッシ協会


かとう だいしろう (文・写真)
Daishiro Kato

1956年北海道生まれ。編集者。これまでに25カ国を訪れ、国際福祉・住宅問題などの分野でルポや写真、エッセイを発表。住宅分野では30年以上にわたり、温熱環境の整備と居住福祉の実現を唱えてきた。主な著書に『現代の国際福祉 アジアへの接近』(中央法規出版)、『家は夏も冬も旨とすべし』(日本評論社)など。出版・編集を手掛けるリヴァープレス社代表(盛岡市)。


日本の引き違い窓に対して、ドイツの窓はドレーキップが主流。1つのレバーハンドルの操作で「内開き」(右)と「内倒し」(左)が可能で、通風、防犯機能も高い。

天窓は北側に設置することで、終日、安定した採光を可能にする。日射遮蔽も同時に考慮する。

一般的な窓の位置より天井に近い高いところに取り付ける高窓(ハイサイドライト)。キャッツウォークを取り付け、メンテナンスも容易にする。

床面に近い場所に設けた地窓。開閉できるタイプなら、夏、冷涼な空気を室内に導くこともできる。

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