家と人をめぐる視点

第12回

収納のたくさんある家はどうして人気が高いのか。

住宅・生活誌「家と人。」編集長 加藤 大志朗

収納が最優先で居室はおまけの住まい

住宅雑誌の売れ行きが悪くなったとき「収納」の特集を組めば売り上げがV字回復する。そんなジンクスがあるほど、家づくりの際、もっとも重視されるのが「収納」といわれています。

この部屋にもあの部屋にも収納、キッチンにも収納、玄関に洗面室に収納、屋根裏、床下にも収納…だけでは飽き足らず、半地下、中2階、ロフトも収納にして外には物置。まさに収納のオンパレードですが、そうした欲求を煽るかのように、収納だらけの住宅商品が出ると大人気。収納に居室がおまけでくっついたような家が日々量産されています。

新築した人へのアンケート調査でも、新居の収納スペースに満足している人は約6割に過ぎず、4割の人は実際に生活して「収納」に不満を抱いているというデータも。

「実際に荷物を入れてみたら、スペースが足りなかった」「ウォーキングクローゼットに、客用の布団が入らない」「出入り口の間口が狭過ぎた」「屋根裏収納を設けたが、大きな荷物が運べない」など問題はさまざま。どんなものをどのくらい収納するのか正確に把握しないまま、旧宅の荷物を全部運びこんでしまう失敗も少なくありません。

残念なことに、これまでの取材の経験では、たっぷり収納スペースが設けられているものの、空間がきれいに片付けられている家はごくわずか。お願いして収納の中を見せていただくと、有り余るモノが放り込まれ、整理というより「隠されている」ケースがほとんどで、増やしても増やしてもモノが片付かない、収納の怪を実感するばかりです。

建築で解決する前にモノとの関係を考え直す

「収納率」という言葉があります。床面積に対する収納面積の割合のことですが、一般的にはクローゼットや押入れなど、高さが180センチ以上ある収納を対象とし、本棚や棚、キャビネット、階段下などデッドスペースを利用した収納は含まれません。

一戸建てでは12〜15%、マンションでは8%程度が標準とされ、平均的な戸建て住宅を40坪として計算すると、収納率12%は4・8坪(15.84u)、15%は6坪(19.8u)となります。一見、たいしたことのない広さに思えますが、4.8坪は9.6畳、6坪は12畳に相当しますので、居室として使えるくらいの広さとなります。この広さを仮に坪単価70万円として計算してみると、
 収納率12%
 →70万円×4.8坪=336万円
 収納率15%
 →70万円×6坪=420万円
という計算になります。

ここで考えていただきたいのは、身の周りにあるモノが9.6畳〜12畳、336万円〜420万円の面積とコストを割いてまで収納すべき価値があるかどうかということです。

本当に必要なモノを選び抜き、最小限のモノで暮らせば、家の中が片付き、掃除もしやすくなります。収納スペースに充てる面積を減らすことで建築費は安くなり、節約できた分をリビングや趣味室の面積に割り当てる、憧れの家具の購入に振り分けることもできるでしょう。

だから、いますぐ断捨離を始め、みんなでミニマリストをめざそうというのではありません。

日々のお掃除、ちょっとした片付け、あるいは買い物をする際に、このモノは「336万円」「420万円」の空間に「隠す」価値があるかどうかを考えてみる。こんなささいなことで、収納に対する考え方が少しずつ変わっていくのかもしれません。

最初からハードルを高くしてしまうと、すぐにめげてしまうのが人間の弱いところ。まずは5年間、いえ、この1年間、一度も触れていないモノがどれくらいあるかを考えてみます。1年間使わずにきたモノは、これから1年、使わずとも生活できるのです。しまい込んで5年以上経った衣類も、捨てる対象です。いつか子どもたちが着るかもしれない、といった淡い期待は幻想に過ぎず、ことごとく裏切られます。彼らにとっては、10年前の50万円のコートやジャケットより、ユニクロや無印良品の新作のほうがずっと魅力的なのです。

モノを捨てることは、執着を捨てること。さあ、今日から修行のはじまりです。


オープンキッチンは、壁やカウンターなどの仕切りがなく、調理している姿を隠すことができないため「道具を片付けざるを得ず、おのずときれいなキッチンになります」(施主)。


家事の最中でも家族とコミュニケーションを取りやすいオープンキッチン。「散らかりやすい」というデメリットは「最小限の道具だけ揃える」(施主)ことで解消する。


壁面収納はデザインの統一感が得られるほか、インテリア性も高い。寝室、リビング、キッチン、玄関など、場所を問わず応用でき、床に収納家具を置かないことで、空間を広く見せる、使えることが可能。

かとう だいしろう (文・写真)
Daishiro Kato

1956年北海道生まれ。編集者。住宅・生活誌「家と人。」編集長。これまでに約20カ国を訪れ、国際福祉・住宅問題などの分野でルポや写真、エッセイを発表。住宅分野では30年にわたり、温熱環境の整備と居住福祉の実現を唱えてきた。主な著書に『現代の国際福祉 アジアへの接近』(中央法規出版)、『家は夏も冬も旨とすべし』(日本評論社)など。出版・編集を手掛けるリヴァープレス社代表(盛岡市)。

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