特集

成功には理由があります

サービス付き高齢者向け住宅活用法

〜医療機関による住宅経営が急増している理由〜

(株)リスクマネジメント・ラボラトリー
仙台支店長 大友 弘信

医療保険・介護保険の将来にわたっての財源不足から、診療報酬の引き下げ傾向は今後も続いていくことが予想されます。しかし、営利企業と違って事業展開にさまざまな制約を受けている医業経営者の皆様には、決定的な打開策を見つけにくいのが現状です。

地域医療への貢献と、医業経営の安定化を両立させる施策の一つが、高齢者層を対象とした付加サービスと考えられています。

サービス付き高齢者向け住宅の意味

現在の高齢者の住まい(入所)としての施設・住宅には下図のような区分けがあります。

介護保険三施設の「特養」「老健」「療養病床」が圧倒的に大きな定員を誇っていますが、いずれも総量規制の対象であり、財政的な理由もあって今後の拡張は望めません。

また住宅系ではケア付き有料老人ホームが受皿と期待されそうですが、費用負担の面で多くの高齢者は実際には利用できないのが実態です。

今回誕生した「サービス付き高齢者向け住宅」は、下図のどの範囲をもカバーできる可能性があり、しかも、他の施設・住宅と違って“総量規制”も“人員配置基準”も、現時点ではありません。

すでに、五月三十日より来年一月末までの期限で、3百億円補助金予算枠で公募が開始されています。

高専賃の時代から、ここ数年医療機関が事業主体となるケースが急増していますが、実際に住んでいる高齢者にとっては、単なる賃貸住宅に居住しているというよりは、“病院”に住んでいるという満足感があるようで、医療機関による「サービス付き高齢者向け住宅」は、完成前からすでに入居希望者が殺到するのが現実です。

高齢者施設の一覧イメージ(これまで)

医療機関にとっての優位性

入居者にとって大きな暮らしの安心を得られるというメリットを享受できるだけでなく、経営する医療機関にとってもメリットがあります。

  1. 「サービス付き高齢者向け住宅」は、施設ではなく住宅です。したがって、入居者に対する医療サービスは“在宅医療”です。
    昨年の診療報酬改訂では、在宅医療が軒並優遇される「在宅誘導」の動きが見られましたが、来年の同時改訂を踏まえて医療経営の強化に合致させられます。
  2. 保険診療以外の収益源を確保できます。「サービス付き高齢者向け住宅」は営利賃貸事業ではありますが、医療法人で経営できることに改正されています。
    政策や財政によって収支がコントロールしずらい医療機関にとって、永続的な地域貢献していくための基盤確保は、ひいては社会的な意味をもつものだと思われます。
  3. 大震災復興のための大きな貢献となります。被災地では、医療ニーズ・介護ニーズの高い高齢者の多くが、困窮している現実があります。
    医療機関だからこその貴重な復興支援です。

その他にも、医療機関経営の安定策・拡大策としていろいろな活用法が考えられます。

経営環境変化への対応

そもそも平成20年11月に出された“社会保障国民会議最終報告”による、「急性期・慢性期の入院医療から、早期退院・在宅医療や在宅での緩和ケア・看取りケアを希望する患者のニーズを満たすことができるよう、地域における病院・診療所連携を強化すると共に在宅医療支援診療所、訪問看護など在宅医療サービスの充実を図る」というな流れにあって、今回の「サービス付き高齢者向け住宅」の制度の変更は、“住宅”というより、“サービス付き”に重点が置かれていることは明らかです。

その意味では今回の制度変更は、医療制度変更に重なっていると言っても過言ではありません。

折しも、大震災直後の4月28日には、種別の異なる法人の医療法人経営を認めることを促進するともとれる「医療法人の再生支援・合併における諸規則の見直し」が閣議決定されております。

社会的に不可欠な質の高い医療サービスを守るためにも、医療費削減のうねりに対抗することは避けられません。

そして、今回の制度変更はその対抗策として活用できる一助になりえる可能性があります。

まとめ

  1. 高齢者世帯の急増で深刻な住宅不足
  2. 厚労省と国交省が新制度で連携
  3. 制度開始に当り三百億円補助で公募開始
  4. 総量規制や人員基準は現時点で無し
  5. 経営主体は医療機関が急増
  6. 新制度住宅は在宅医療対象
  7. 医療機関経営基盤強化になりえる
  8. 多くの医療型が存在しノウハウも蓄積

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