特集

クリニックのマーケティングを考える(2)

患者満足度アップのための戦略「打ち手」構築とは?

〜その1 対策の前に問題発見を!〜

(株)リスクマネジメント・ラボラトリー
北海道・東北本部長 渡辺 徹

クリニックのマーケティング戦略の中心課題は「患者満足度の向上」をどのようにするか、でしょう。

医業収入(売上)=単価(診療報酬)×人数(来院患者数)という式で医業収入(売上)が決まるわけですから、診療報酬アップに期待が持てない今後、来院患者数をどのようにして増やすか(あるいは減らさないか)が焦点となってきます。そのキーポイントが「患者満足度の向上」です。いよいよ医療機関にも勝ち組と負け組みが生まれる構図がすぐそこまで来ているということでしょうか。

患者満足度アップのための「打ち手」は重要だが…

医業経営専門雑誌には、時々「この方法で増患対策に成功!全国〇〇件の成功事例」のような刺激的な特集が掲載されます。例えば、「健康帳を配布することで、大成功!」という記事を読むと、「うちも、同じことをしなければ!」とあせってしまいます。でも、ちょっと待ってください。そのクリニックの成功例が、なぜ同じように自分のクリニックで通用するのでしょう?

マーケティング戦略を考えるときの手順は、問題点探しから始まります。わかりやすい例でお話しすると、例えば、繁華街のビルで診療しているクリニックが、診療時間を夜遅くにシフトして成功したとします。同じことを新興住宅地の診療所で行ったらどうでしょうか。前者診療所の問題点は、対象となる患者さんの受診しやすい時間帯と診療時間にズレがあるという問題があったからこそ、診療時間をシフトして成功したわけですね。

マーケティング戦略(打ち手)とは何か

マーケティング戦略というと何やら難しそうですが、患者満足度を向上させるための何かしらの行動」「打ち手」と思ってください。「職員全員、笑顔で患者さんと接する」ということでも立派なマーケティング戦略です。

マーケティング戦略(打ち手)は何のために構築するのでしょうか?なぜ、他のクリニックの成功例が気になるのでしょうか? もしも、ご自分のクリニックに何の問題もなければ、何か新しい戦略を構築する必要はないでしょう。

マーケティング戦略は、次のように定義づけるとわかりやすくなります。

マーケティング戦略=問題点の解決策

そこで、戦略を考える前に、問題発見が重要となるわけです。

問題発見の方法とは

問題発見というのは、簡単そうに見えますが奥の深いものです。本屋さんのビジネス書コーナーには、問題発見や問題解決に関する書籍がたくさん並んでいます。それも、著者はマッキンゼーやボストンコンサルティングなど、世界の名だたる戦略ファーム出身の方々です。

私も仕事柄、問題解決に関する書籍を何冊か読みましたが、なるほどと思わされる内容のものが多いです。ご関心ありましたら、是非お読みになってみてください。経営だけでなく、きっと診療の一助にもなるのではないかと思います。その中に書かれていることで共通しているのは、「問題点」というのは「差異」「ギャップ」を見つけることだということです。「あるべき姿」と「現状」とのギャップ(差異)が、すなわち「問題」だということですね。確かに、「あるべき姿」と「現状」とにギャップがなければ、問題はないですよね。

ギャップ

「ギャップ」はあるべき姿だけでなくてもいいでしょう。「問題」=「差異」という公式が重要です。去年と今年では何が違うのだろうか、あのクリニックとどこが違うのだろうか、でも結構です。このように「差異」に注目するからこそ、医業収入の変化、患者数の変化などにも気付くわけです。

是非、様々な「ギャップ(差異)」に注目してみてください。問題点が見えてきませんか?

そして、その問題の解決策が戦略(打ち手)となるわけです。

問題発見のコツ

「ギャップ(差異)」をみつけること=問題発見だということですが、戦略(打ち手)に結びつけるためには少しコツが必要です。例えば、医業収入が昨年より減少したとしましょう。大きな問題です。でも、どのような解決策が有効でしょうか? 問題が大きすぎて答えを出しにくいですね。

問題は、どのような問題からできあがっているか、部品に分けてみる必要があります。問題を構造的に分解する技術はそれだけで1冊の本になってしまうほどの内容ですが、簡単な方法があります。それは「その問題って、現象でしょ」と自問することです。それを「現象」と捉えられたときに、「なぜ、その現象が起きたの?」と自問できるようになります。これが、問題の分解です。
収入が減少したという現象は、なぜ起こったのでしょうか?患者数の変化は?一人当たりの単価は?どちらかに大きな変化があったとすると、さらに「それって、現象でしょ?」と自問してみます。患者数の減少だとすると、どの層の患者が減ったのか、何月が減ったのか、何曜日が減ったのかが気になります。それがわかると、休診日や診療時間に問題が発生していないか、競合クリニックができたのではないか、何か患者さんの不満があるのではないか…このように問題を分解することで、解決策が見えてきます。

問題を発見するには、あるべき姿を「誰にとって」、「何のために」という視点で見てみると具体的になると言われています。が、それだけだと近視眼的な問題発見になってしまったり、問題を見誤ったりすることがあります。
忘れてはならないのは、「全体像を俯瞰すること」=一歩引いて広い視野で捉えてみること(空間軸)と、「将来はどうなのか」=どの時点の問題と捉えるか(時間軸)という二つの視点です。この二つの視点は、とかく忘れがちになりますし、殆どの失敗はこの視点が欠如していたことが原因になります。
何か新しい戦略(打ち手・行動)を起こすときは、是非どの問題を解決する手段として行おうとしているのかを確認してから実行してください。この考え方ひとつで、かなり成功率が高くなると思います。

次回からは、「患者満足度向上」のための具体策をご紹介していく予定です。

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