美術散歩

第2回

東日本大震災津波伝承館
陸前高田市立博物館

復興と街の賑わいと。海と大地とともに生きる陸前高田市


燦燦と真夏の太陽が照り付ける8月、陸前高田市を訪れた。東日本大震災津波から12年を経過した今、新しいまちづくりが着々と進んで、大勢の観光客の姿が見られた。その多くが必ず訪れるであろう施設が開館5年目を迎えた「東日本大震災津波伝承館」である。

館内に入ると津波に破壊された鉄橋の一部と消防車両がまず目を引く。区分された4つのゾーンは、津波の歴史や被災の事実を知るとともに、命を守る教訓と学びを重視している。中でも県内の沿岸各所で撮影された写真や映像を視聴できるコーナーは、あの時の衝撃と恐怖が生々しく甦ってきた。

解説員の人首まさよさんは「津波は本当に悲しい出来事でした。ここに来たことをきっかけに命を守る行動を常に意識して備えを怠らず、地域に帰ってから周囲の皆さんに伝えていただきたい」と話す。

津波伝承館と、隣接する道の駅高田松原はかつて松原があった場所に建ち、今は広大な高田松原復興祈念公園になっている。2つの建物の間には石造りの広場があり、一点透視法で細くなる中央の道が防潮堤へと続く。

堤防の上に立つと、穏やかな海が青々と広がっていた。復興のシンボルである奇跡の一本松や、震災遺構となった建物が一望できる。10年前に再生を願って植えられた松林が成長して緑の濃さを増し、その向こうには再興した高田松原海水浴場が夏の賑わいをみせていた。

次に向かったのは、JR陸前高田駅西側に建つ陸前高田市立博物館。同館の歴史は古く、1959(昭和34)年に東北地方第一号の公立登録博物館として開館した。しかし、東日本大震災津波により館は全壊し、資料も壊滅的な被害を受けた。収蔵物も展示物も塩水に浸かり、再建への道のりは険しかったが、全国の専門機関の協力のもと資料の再収集や収蔵品の修復が行われ、11年8カ月を経て2022年11月、待望のオープンを果たした。

同時に、被災した「海と貝のミュージアム」も統合し、今は陸前高田観光の目玉として、街の中心部に賑わいを生み出すミュージアムとして、来館者の目を楽しませている。

館内には約7300点の収蔵品が常設展示されているが、そのうち9割が被災後に修復したもので、現在も展示室の手前にある作業室では、貴重な修復作業を間近に見ることができる。

特に圧巻なのは、「海と貝のミュージアム」の展示品であった国内最大級のツチクジラの剥製「つっちい」。つくば市の国立科学博物館筑波研究施設での修復を経て陸前高田市に帰ってきた。つっちいが出迎える「貝たちの部屋」は、世界各国約2000点の貝類標本が展示され、まさに豊かな海の宝石のように輝いている。

もう一つ、新博物館で最近、注目されているのが博物学者の「知の巨人 鳥羽源蔵」のコーナー。鳥羽と愛弟子である千葉蘭児の業績や貴重なコレクションを紹介している。鳥羽がNHK朝の連続テレビ小説の主人公・牧野富太郎と親交があり、その研究を下支えしていたこともあり、ホットな話題となっているようだ。

博物館の2階に上がると、屋根と屋根の間に展望のよい屋上があり、青い海原や陸前高田の街並みが眺められる。いざという時には避難場所になるのだそうだ。このミュージアムもまた、街と人々の安全を未来に伝承しているのだろう。


被災した消防車両


高田松原津波復興祈念公園


巨大な「つっちい」が出迎える「貝たちの部屋」


三陸の海の豊かさを伝えるコーナー

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