事業継続・承継と税務対策について(要旨)
座長/いわて医協専務理事
        小 原 紀 彰
講師/医療経営財務協会会長・公認会計士・税理士
           岡 田 芳 明 先生

 医療界も世代交代の時期で、病・医院のリニューアルに伴って若先生が事業継承のタイミングに当たったりしており、 「万が一事態」 が発生しても最悪の対応を避けるような準備が常に必要です。 「相続・事業承継」 の税務対策です。税金については一度失敗したら取り返しがつかない。事前の対策を十分していれば、税金の負担は軽減できます。法人税・所得税では昨年の10分の1に軽減するということは出来ないのですが、相続税はそれが実は出来るのです。

T 相続税の基礎知識
(1)相続税の対象となる財産とその評価方法
@ 預貯金
@)要求払預貯金(普通預金、当座預金、通知預金、通常貯金等)
A)定期性預貯金(定期預金、定額貯金)
A 有価証券
@)上場株式
A)医療法人の出資持分
  医師にも株式運用している方が多く、上場の株式は相続の対象。
B 土 地
 どういう状態で土地を使用しているかで評価がかなり違います。
@)自用地   路線価方式又は倍率方式
 医療法人ではなくて個人の医師が所有する病院・医院が建っている土地(底地)が100%とします。路線価方式、倍率方式(市街地で路線価がついてない土地、固定資産税×倍率)
A)貸宅地   @) × (1−借地権割合)
 土地については個人名義、建物が医療法人の評価は自身が理事長を務める病院・医院であったとしても、第三者の建物が建っているという認識に税務署はなりますので、貸宅地ということになります。自用地で100%評価したものから、建物が建っているということで土地の評価が下がる。借地権割合が70%の土地であると、土地の評価は30%になってしまう。借地権が発生するがその権利は自分が理事長を務める医療法人ということになる。
B)貸家建付地  @) × (1−借地権割合×借家権割合)
 クリニックに多いケースです。クリニックで医療法人の場合。
 土地・建物の名義は院長個人、医療法人でも土地・建物の名義は変えない。病院以外の診療所の名義は個人の場合が一般的。個人から法人になるときも名義は変えないで、クリニックに貸し付けるというのが一般的。土地・建物の名義を替えていないのに土地の評価が下がる
A)ほど効果がないが、借地権割合70%、借家権割合30%が全国一律ですので 21%引くことができます。79%が相続税の対象に。
C)借地権  @) ×借地権割合
 第三者から借りている土地に診療所の建物を建てているばあい。
 借地権のみが相続の対象になり、最近、このパターンは多い。
 法人化を考える際に土地・建物の名義は替えなくても、医療法人化するだけで土地の評価額が下がってしまう。
C 建 物
@)自用家屋  固定資産税評価額
 市町村から来ている固定資産税の評価額がそのまま建物の相続税の評価額になる。
 個人で開設している病院・医院の先生方建物は、ご自宅用であろうが事業用であろうが変わらない。
A)貸 家   @) × (1−借家権割合)
 土地・建物を院長個人名義にしておいて、その名義を替えると 「不動産取得税」 が発生したり、 「登録免許税」 が発生したりして色んな税金が発生します。土地・建物も院長個人名義にして、建物を医療法人に貸すと自用家屋を100%とすると建物の評価額が70%下がる。医療法人化が毎期の節税対策とすることも多いですが、実は、医療法人化が威力を発揮するのは相続・事業承継の局面です。
 個人の時に土地・建物も院長の名義になっていますが、それを医療法人化して建物の名義を替えないで法人に貸すだけで土地は21%評価減が出て、建物は30%評価減が出てくる。ここが法人化メリット。一円もコストを掛けないのに財産の評価が勝手に下がってしまう。
D ゴルフ会員権
 最近は、相続税の対象にならないような状況になっています。
 @〜Dは相続の対象になる財産です(民法上の相続財産。相続人間の間で分割を話し合わなければならない)。E〜Fは意味が違ってまいります。みなし相続財産(民法上の相続財産ではないので遺産分割の対象にしなくても良い。税金だけは払わなければならない。生命保険金と退職金です)。
E 生命保険金
@)契約者及び被保険者:被相続人  被保険者:相続人
 生命保険を掛けるときに契約をする方、誰に生命保険を掛けるかというのが被保険者、大先生が自分を対象に自分で契約し、受取人を妻にする典型的ケースですが、 「500万円×法定相続人数」 まで非課税→控除される。
F 退 職 金
 個人経営の先生は、つまり事業主とか青色専従者の方は万が一の場合も事業を辞めても退職金を支給できない。唯一例外として、 「小規模企業共済掛け金」 という制度がありますが、これは唯一個人の退職金扱いになります。
 医療法人のメリットは退職金の支給が出来ます。院長先生は勿論、理事である奥様ですとか、若先生、若先生の奥様とかご親族を含めて理事、理事長、監事とかに退職金の支給が出来ます。
@) 「500万円×法定相続人数」 まで非課税
  1億円退職金を払っても、相続人が4人ならば2000万円まで非課税。
A)別枠で弔慰金について下記の金額が非課税
 退職金と弔慰金は分けて考えている。
・ 「業務上の死亡」 役員報酬の3年分
・ 「それ以外の時」 役員報酬の半年分
 理事長先生の役員報酬が月額300万円、理事長として30年間在任期間があります。残念ながら 「万が一」 のことがあったとして、そうすると今税務上認められている退職金、裁判所の判例として300万円×30年間×3.0(理事長の功績倍率)=2億7千万円が退職金となります。医療法人はこれを損金といって必要経費になります。
 受け取った親族は相続財産になってしまうのですが、
 これの相続人(例えば4人)×500万円の2千万円が控除される。
 弔慰金については、業務上の死亡については、
 役員報酬の3年分、例えば300万円×36ヶ月分(3年間)=1億800万円を払っている医療法人は全額損金として経費。受け取った遺族は、非課税で受け取れるのです。業務上だと36ヶ月、それ以外の時は6ヶ月(1800万円)。理事長に対し法人が受取人として生命保険が入っているが、そのままだと課税の対象になるので、退職金・弔慰金として出すと、法人は基本的に課税が発生しない場合があり、受け取った遺族は、退職金なのか弔慰金なのかということもありますが、弔慰金で受け取ると非課税となります。しかし、業務上の定義が難しいのです。例えば診察中に亡くなったとしても業務上でなくて業務中なのです。業務上とは、業務の内容と死亡した原因との間に相当の因果関係がないと駄目なのです。典型的な事例は、院内感染で死亡したとか、在宅医療している先生が車で移動中に交通事故にあったとかが業務上であります。
G その他
@)事業用財産(個人の病医院の場合)
 医療法人の先生は関係が無いが、個人経営の先生は、事業用の財産が相続税の対象になります。社保・国保の未収金、医薬品・治療用材料の在庫、医療機器・備品等が相続税の対象になります。卸に対する買掛金はマイナスの財産。
A)債権(医療法人に対する貸付金、未収金、※第3者に対する貸付金)
 法人化されている場合は、法人に対する貸付金、未収金。第3者に対する貸付金とは、法人から友人とかご親戚に貸付金は返ってくるまで金銭債権として財産になってしまい相続税の対象になる。問題になるのは、税務調査を受けた時に遺族が初めて気がつくということがあります。しかも貸し金が返ってこない場合が多い。 「債権放棄」 の手続きが必要である場合が多い。
B)書画、骨董、貴金属
 相続税の調査が入りますと、調査官はご自宅に行きます。相続税を納める方は、相続対象者の実際は5%しかいないんです。医師のご遺族は大体その5%の中に入っており、入念な調査を行います。
※相続のスケジュール

 死亡の10ヶ月以内に相続税の申告と納付、概ね1年間位を経過して、早い場合も、3年間位後ということもありますが、大体1年間経過以降に調査があります。1年間位経つと遺族も安心して、心に隙が出る。眠っていた預金が動き出したり、財産が処分されたりすることがあったりするわけです。告別式とかに花輪が何処からきているかもチェックしています。取引の無い銀行の支店長がそんなことをするわけは無いですから、会計帳簿に上がっていないところも取引がある。税務調査前に全てにあたって、株式の売買もきちんと調べます。
 医師のご遺族の調査で問題点になっていることが二つあります。
 一つ目は、名義預金、例えば、大先生名義の預金2千万円が本日満期になりましたが、同日、若先生の名義の預金が2千万円増えていました。元々名義が替わっただけで、本来の名義は大先生であります。贈与税の手続きもなしに名義だけ移っている。ご親族名義の預金でご本人が獲得したものでない預金が問題になります。税務調査官が銀行に出向きますと例えば鈴木一郎という名義を引っ張ってくると、その人の親族全部が出てきます。入金・出金がはっきりしますし、金融機関は10年間のデータ保存がありますし、それ以前もマイクロフィルム保存がしてあります。銀行の関係の取引は、20、30年前でも残っておりますので、ご注意ください。
 もう一つは、名義株式、例えばNTTの株式を先生が持っていて、名義を書き換えて奥様とか若先生の名義になっている。時には何千万、何億円になることもあります。名義変更、銀行証書の印鑑、筆跡も良く調べます。
 税務調査が入りますと 「奥様の貴金属を持ってきてください」 になります。 「これ幾らですか?」 と尋ねられ 「何百万円」 と答えますと、宝石を送るときに贈与税の申告をするひとはいませんが、大先生がお買いになってたまたま奥様が身に着けているという認識なのです。
C)家庭用財産
 税務調査官の人のお話では、何も上がっていないと詳しく調べます。自宅の固定資産税の約10%位を家庭用財産として申告しておくとあまり問題にされませんので、これもテクニックだと思います。例えば、ご自宅の建設費に1億円かかったとしますと固定資産税評価額は約5千万円です。その10%の5百万円位を家庭用財産としてあげます。
D) 「相続人」 が、相続開始3年以内に被相続人から贈与された財産 「相続人」 つまり奥様・息子・娘さんに対しては、亡くなる前日に贈与しても無効になります。相続人でなければ良いのです。お孫さんとか若先生の嫁さんとかに、前日でも意識がはっきりしていれば有効です。直前対策と言っています。
(2) 最近の相続税に関する税務調査のポイント
 預金と株式は注意。貸し金庫をお持ちの方も多いと思いますし、ペイオフ対策として現金で持っている方も多いと思いますが、貸し金庫は税務調査官が付いて来て調査する。
(3)相続対策のポイント
@ 現状把握
 8割以上の先生方にこの現状把握が出来ていない。私のクライアントは12月31日時点でのその先生の全ての財産、全てのマイナスの財産(債務)を毎年作成することが必要です。預金残高、株式の評価額、土地の評価額、建物の評価額を毎年モニタリングしておく。債務も確認して財産額から引いたものがネット(正味)の財産です。正味財産に税率を掛けて相続税額が出てくるわけです。生命保険についても何に入っているかを確認しておかなければなりません。個人のバランスシートです。財産、債務については勿論ですが、生命保険については一覧表を必ず作っておく。誰が被保険者で誰が受取人で何歳まで幾らの補償があるのか。相続税額が生命保険金でカバーされていれば、残された親族は、今までの生活状態を落とさなくて済むのです。カバーされていないと財産を処分したり、あるいは借り入れを増やしたりして対応しなければならない。
A 相続財産の評価引き下げ
B 相続財産の移転
C 納税資金の準備
 ABを行ったうえで納税資金を確保ですが、預貯金で残すことは低金利の時代には難しい。不動産を処分して相続税額を作ろうとすると処分したときに税金がかかる。
 生命保険を利用するのが手っ取り早い。
D争続(争族)対策(もめない対策)
  現在、一番相談が多いのはこの問題です。


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