いわてのこんなところ
● 大 橋 鉱 山 ●
(したたかな山師たち)
 

釜石医師会 工藤 純孝

グラニットホール
グラニットホール内のカフェテリア
 民話の里、 遠野を通り国道283号をさらに東に進むと、 豊かな平野から北上山系への山道にかかる。 山肌の間を抜けると突如、 片岩と名づけられた100米を越す屏風岩が右手に現れる。 いかにも仙人の棲家を髣髴とさせる風景が続く。 ことに紅葉の時期のドライブは心を和ませる。 道は山腹のトンネルを通って釜石へ向かう。 トンネル開通から今年で50周年になるが、 それまでは1000米を越える山脈の山道を、 徒歩で3時間余歩いて軽便鉄道に乗り継ぎ花巻へ出るという難所であり、 文化も隔絶されていた。
 1727年 (享保12年) 阿部将翁が江戸幕府の命により鉄鉱脈の探索の際に、 この峠で磁石が狂ったことから発見された良質で豊富な鉱脈は、 大島高任の洋式高炉の築造を得て、 釜石は近代製鉄の発祥の地となった。 以後、 産業革命、 軍需景気と日本の経済を支えるとともに鉱脈は枯渇し、 釜石製鉄所の縮小につれ、 鉱山も閉山寸前まで追い込まれた。
 ところが、 どっこい。 ここからがしたたかな山師の本領発揮である。
 昭和63年130年の鉱山の歴史にけじめをつけ、 鉄・銅の採掘整理を開始。 同時に動燃原位置試験を受諾、 当時市民の一部から放射性物質の最終処分場になると反対運動を受けたが、 平成9年に終了。 この間山頂から永い期間を経て坑道に湧き出す鉱泉水 「仙人秘水」 の製品化を進め、 販売に成功。 さらに坑道の多目的利用を検討しつづけた。
 現在、 鉱山の標高差を利用した水力発電。 坑道内の恒冷温を利用した野菜、 アルコール飲料等の長期保存。 巨大空洞空間を利用した音楽ホール、 雲物理研究、 東北大学地震研究施設など、 次々に新企画を生み出している。 とくに仙人秘水は世界でも類の無い滅菌処理のされていない自然水である。 また、 剥き出しの花崗岩の岩肌に反響する音のハーモニーは間違い無く我々を幻想の世界に惹き込む。
 山を愛した男たちが、 永く恩恵を受けた山を、 さらに深く、 愛しつづけ、 共に生きて続けている物語を敬意とともにご紹介した。 前述の仙人トンネルは、 鉱脈が無いことを承知で遠野側まで掘り進んだ山師の男気である。

追記: 鉱山見学には予約が必要です。 0193 (59) 2221釜石鉱山へ申込みください。
花崗岩の音楽堂グラニットホールで録音した清水靖晃のテナーサックスCDはヴィクターからVICP60887、 3,045円で販売されています。
写真提供 釜石鉱山 鈴木 裕 社長



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